教えて!ちゃいとん先生(第二回)

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龍玉老師

つづき

それでは、原文を見てみましょう。

◆邪氣藏府病形第四.

(中略)黄帝曰.余聞五藏六府之氣.滎輸所入爲合.令何道從入.入安連過.願聞其故.

岐伯荅曰.此陽脉之別入于内.屬於府者也.

黄帝曰.滎輸與合.各有名乎.

岐伯荅曰.滎輸治外經.合治内府

 

黄帝曰.治内府奈何.

岐伯曰.取之於合.

黄帝曰.合各有名乎.

岐伯荅曰.

胃合於三里.

大腸合入于巨虚上廉.

小腸合入于巨虚下廉.

三焦合入于委陽.

膀胱合入于委中央.

膽合入于陽陵泉.

黄帝「臓腑の気が、栄穴輸穴とめぐって合穴に入ると聞くけれど、詳しく教えてよ?」

岐伯「陽経が別れて体内を流注して、六腑に属するのですよ」

黄「滎穴・輸穴・合穴って、それぞれなんと?」

岐「滎輸は流注上の症状を治め・合は所属する六腑を治めます」

 

黄「内腑を治めるとは?」

岐「合穴を取ります」

黄「合穴とは?」

岐「

胃は 足三里に合す、

小腸は 上巨虚、

大腸は 下巨虚、

三焦は 委陽、

膀胱は 委中、

胆は 陽陵泉に合し入ります。」

↑この条りで、おなじみの「下合穴」のセットが出てきます。

この文脈では、そもそも「(下)合穴」は経絡(○○経)ではなく、腑と直接対応したツボだ、と解説しているわけです。

更に話(『霊枢』邪気蔵府病形(04))は続きます。

(中略)黄帝曰.願聞六府之病.

(中略)

大腸病者.腸中切痛.而鳴濯濯.冬曰重感于寒.即泄.當臍而痛.不能久立.與胃同候.取巨虚上廉

胃病者.腹䐜脹.胃脘當心而痛.上支兩脅.膈咽不通.食飮不下.取之三里也.

小腸病者.小腹痛.腰脊控睾而痛.時窘之後.當耳前熱.若寒甚.若獨上熱甚.及手小指次指之間熱.若脉陷者.此其候也.手太陽病也.取之巨虚下廉

三焦病者.腹氣滿.小腹尤堅.不得小便.窘急.溢則水.留即爲脹.候在足太陽之外大絡.大絡在太陽少陽之間.亦見于脉.取委陽

膀胱病者.小腹偏腫而痛.以手按之.即欲小便而不得.肩上熱.若脉陷.及足小指外廉及脛踝後皆熱.若脉陷.取委中央.

膽病者.善大息.口苦嘔宿汁.心下澹澹.恐人將捕之.嗌中吤吤然數唾.在足少陽之本末.亦視其脉之陷下者灸之.其寒熱者.取陽陵泉

 

ここでは、黄帝が「六腑の病」について尋ねます。

○○病—症状—下合穴。

と言うセットになっています。

大腸=腸の痛み

胃=胃脘痛

小腸=小腹、腰背中の痛み

三焦=水腫

膀胱=小便の問題

胆=口苦・胆汁

など六腑の所見がある

↑六腑の病について、若干、経絡の流注の症状もありますが、基本的に現在の中医学で理解されている蔵象理論の考え方に近いですよね。
その「腑の症状」を、合穴で治療するとあります。その合穴はつまり現在では「下」合穴と知られているツボです。

 

■例えば、「大腸の病」と言っても、虚・実・寒・熱があるわけで、「大腸経」には大腸経の井滎兪經合があるのですから、「手の陽明を取れ」と言うならまだしも「合穴=上巨虚を取れ」と言われてしまうと、他のツボやそもそも大腸経の面目が立たないような気がします。

そこで、経脈については何が書いてあるのか、『霊枢』経脈(10)篇を見てみましょう。↓

でたー!! 是動病・所生病です。

今度は黄帝が雷公先生の質問に答えます。
↓の表では順番を意図的に変えて、臓と腑の経絡に分けています

腑の経絡はほとんどが流注の疾患のみだということに気が付きます。↓↓↓

肝足厥陰之脈,(流注:省略)是動則病 腰痛不可以俛仰,丈夫㿉疝,婦人少腹腫,甚則嗌乾,面塵,脫色。是肝所生病者,胸滿,嘔逆,飧泄,狐疝,遺溺,閉癃(治法:省略)。

心手少陰之脈,(流注:省略)是動則病 嗌干,心痛,渴而欲飲,是為臂厥。是主心所生病者,目黃,脅痛,臑臂內後廉痛厥,掌中熱痛。(治法:省略)。

心主手厥陰心包絡之脈,(流注:省略)是動則病 手心熱,臂肘攣急,腋腫,甚則胸脅支滿,心中憺憺大動,面赤,目黃,喜笑不休。是主脈所生病者,煩心,心痛,掌中熱。(治法:省略)。

脾足太陰之脈,(流注:省略)是動則病 舌本強,食則嘔,胃脘痛,腹脹,善噫,得後與氣,則快然如衰,身體皆重。是主脾所生病者,舌本痛,體不能動搖,食不下,煩心,心下急痛,溏瘕泄,水閉,黃疸,不能臥,強立,股膝內腫厥,足大趾不用。(治法:省略)。

肺手太陰之脈,(流注:省略) 是動則病 肺脹滿,膨脹而喘咳,缺盆中痛,甚則交兩手而瞀,此為臂厥。是主肺所生病者,咳上氣,喘渴,煩心,胸滿,臑臂內前廉痛厥,掌中熱。氣盛有餘,則肩背痛,風寒汗出中風,小便數而欠。氣虛則肩背痛,寒,少氣不足以息,溺色變。(治法:省略)。

腎足少陰之脈,(流注:省略)是動則病 飢不欲食,面如漆柴,咳唾則有血,喝喝而喘,坐而欲起,目𥆨𥆨如無所見,心如懸若飢狀。氣不足則善恐,心惕惕如人將捕之,是為骨厥。是主腎所生病者,口熱,舌乾,咽腫,上氣,嗌乾及痛,煩心,心痛,黃疸,腸澼,脊股內後廉痛,痿厥,嗜臥,足下熱而痛。(治法:省略)。

大腸手陽明之脈,(流注:省略)是動則病 齒痛,頸腫。是主津液所生病者,目黃,口乾,鼽衄,喉痺,肩前臑痛,大指次指痛不用氣有餘則當脈所過者熱腫;虛則寒慄不復。(治法:省略)。

胃足陽明之脈,(流注:省略)是動則病 洒洒振寒,善呻,數欠,顏黑,病至則惡人與火,聞木聲則惕然而惊,心欲動,獨閉戶塞牖而處。甚則欲上高而歌,棄衣而走,賁嚮腹脹,是為骭厥。是主血所生病者,狂瘧溫淫,汗出,鼽衄,口喎,唇胗,頸腫,喉痺,大腹水腫,膝臏腫痛,循膺乳、氣沖、股、伏兔、骭外廉、足跗上皆痛,中趾不用,氣盛則身以前皆熱,其有餘於胃,則消穀善飢,溺色黃;氣不足則身以前皆寒慄,胃中寒則脹滿。(治法:省略)。

小腸手太陽之脈,(流注:省略)是動則病 嗌痛,頷腫,不可以顧,肩似拔,臑似折。是主液所生病者,耳聾、目黃,頰腫,頸、頷、肩、臑、肘、臂外後廉痛。(治法:省略)。

膀胱足太陽之脈,(流注:省略)是動則病 沖頭痛,目似脫,項如拔,脊痛,腰似折,髀不可以曲,膕如結,踹如裂,是為踝厥。是主筋所生病者,痔、瘧、狂、癲疾、頭𩕄項痛,目黃、淚出,鼽衄,項、背、腰、尻、膕踹、腳皆痛,小趾不用。(治法:省略)。

三焦手少陽之脈,(流注:省略)是動則病 耳聾渾渾焞焞,嗌腫,喉痺。是主氣所生病者,汗出,目銳眥痛,頰痛,耳後、肩、臑、肘、臂外皆痛,小指次指不用。(治法:省略)。

膽足少陽之脈,(流注:省略)是動則病 口苦,善太息,心脅痛,不能轉側,甚則面微有塵,體無膏澤,足外反熱,是為陽厥。是主骨所生病者,頭痛,頷痛,目銳眥痛,缺盆中腫痛,腋下腫,馬刀俠癭,汗出振寒,瘧,胸、脅、肋、髀、膝外至脛、絕骨、外踝前及諸節皆痛,小趾次趾不用。(治法:省略)。

 

私の解釈ですが、青文字は蔵象、赤字は流注のそれぞれ症状が書かれているところです。(緑は、熱の症状など『傷寒論』の三陰三陽の症状と解釈が出来そうな部分です)

六臓の方は、蔵象と流注のそれぞれの症状が書かれているように見えます。

六腑のところは、胃と胆に少々蔵象らしい部分がありますが、他はほぼ流注の症状のみと解釈できそうです。

■つまり「経脈篇」↑ですと、陽経は胃と胆以外は、六腑の生理機能と関係なく、ただ流注のみで症状が羅列されているのでした。

膀胱経ですら、ありそうな「小便がどうした」と言う記述がみあたりません。

 

こう見ると、そもそも「小腸・大腸・膀胱・三焦」については、腑と経絡の結びつきはそれほど強くないのではなかろうか、と言う疑念がわいて来る理由がわかりますよね。

“時代が下るにつれ発展していった”と言う人もいるでしょうが、、、やはり現在でも、未だに小腸と小腸経、大腸と大腸経、膀胱と膀胱経、三焦と三焦経は、関係性が希薄ではありませんか?

多分、時間的な流れとして、経験的に肩・耳・歯の脈と言う「経絡」が認識されていて、発熱に対する医学が発展して「三陽経と言う属性」が結びつき、最後に蔵象説・経絡説が発展して「六腑とリンク」したのではないかな、と言う流れが見えてくるような気がします。

ただこれは、理論的な美しさを求めた結果のようにも思えます。

よくツボの解説などで大腸経のツボを指して「便秘など大腸の症状によいです」などと見かけますが、実際に臨床家が便秘で取穴しているのは胃経と言うことになるような気がします。

聊か迷走しましたが、質問者の方への答えととしては

・六腑の症状に対応できる合穴とは、もともと「下合穴」だった。

・手陽明大腸経 合穴 〔曲池〕は大腸の疾患に用いられることは希ですが、「使われない」わけではなく、陽明の熱、風邪が裏に入って悪寒を伴わない発熱になっているときには、頻繁に用いられますよ。むしろ滎穴である〔二間〕よりも頻繁に使うことが多いと思います。

∴便秘や大腸の証にはまず大腸の合穴〔上巨虚〕がおすすめ。 そこで例えば熱症状を伴う便秘の場合は手の陽明の合穴〔曲池〕を加味するとよいでしょう。
また食欲が亢進するのは胃熱証なので、胃の合穴〔足三里〕と胃経の滎穴〔内庭〕のペアで胃熱を去ることをおすすめします。

 

〈ちゃいとん始末〉